2015年5月24日日曜日

【読了】バリー著(河合祥一郎訳)『新訳 ピーター・パン』

スコットランド生まれの小説家
ジェームス・マシュー・バリュー(1860.5-1937.6)の
小説『ピーター・パンとウェンディ』を読みました。

著者51歳の時(1911.10)出版された作品です。


ジェームス・マシュー・バリュー著
河合祥一郎訳
『新訳 ピーター・パン』
(角川つばさ文庫、2013年1月)

まずは小説『ピーター・パンとウェンディ』が
成立するまでの経緯を簡単にまとめておきます。


ピーター・パンのお話は、
著者42歳の時(1902.11)に出版された
小説小さな白い鳥 The Little White Birdの中で(第18-23章)、
劇中劇として描かれたのが初めてでした。

 ※46歳の時(1906)に、この劇中劇のみを独立させ、
  『ケンジントン公園のピーター・パン
      Peter Pan in the Kensington Gardens
  と題して出版されました。

  日本語訳はかつて、
   本多顕彰(ほんだあきら)訳
   『ピーター・パン』
   (新潮文庫、1953年10月。1988年11月、58刷改版)
  として出ていました。


この劇中劇をもとに
改めて書き下ろされたのが、
戯曲ピーター・パン ―あるいは大人になりたがらない少年
    Peter Pan; or, the Boy Who Wouldn't Grow Up
であり、著者44歳の時(1904.12)に初演され、大成功を収めました。

 ※この戯曲版も68歳の時(1928)に出版されています。
  日本語訳はまだ出ていないようです。


この戯曲をもとに
改めて書き下ろされたのが、
小説ピーター・パンとウェンディ Peter and Wendy
であり、著者51歳の時(1911.10)に出版されました。

日本で翻訳されているのは、
ディズニー映画などの翻案をのぞけば、
『ピーター・パン』とのみある場合でも、
ほとんどはこの小説『ピーター・パンとウェンディ』の翻訳になっています。


  ***

『ピーター・パン』を読むのは初めてでしたが、
河合祥一郎氏のよくこなれた訳文によって、

現代の小説を読むのと同じ感覚で、
最後まで楽しく読み進めることができました。

もとはお芝居なので、
河合氏のシェイクスピア劇の翻訳、
上演の経験が生かされているように感じました。


寝る前に、親から子へと伝えられる
楽しい夢のお話をたくさんかき集めたような、

バリー独特の感性に彩られた風変わりな作品でした

今読むと、
確かに変わったお話ではありますが、
それほどぶっ飛んでるわけでもなく、

昔ながらのごく穏当な倫理観、正義感にもとづいているので、
安心して読み進めることができました。


お芝居として書き切れないアイデアを
すべて詰め込んだからなのか、

小説としてみると多少雑然とした感じもありましたが、

読み終わってみると
また始めから読み返してみたい、
不思議な魅力にあふれた小説だと思いました。


  ***

河合訳以外に、
次の翻訳を手に入れました。

厨川圭子(くりやがわけいこ)訳
『ピーター・パン』
(岩波少年文庫、1954年10月。新装版、2000年11月)

石井桃子(いしいももこ)訳
『ピーター・パンとウェンディ』
(福音館文庫、2003年6月)
 ※初出は岩波文庫(1957年)。改訳の上、
  福音館古典童話シリーズ5(1972年4月)に再録。


高杉一郎(たかすぎいちろう)訳
『ピーター・パンとウェンディ』
(講談社青い鳥文庫、2010年11月)
 ※初出は『ピーター・パン』(講談社文庫、1984年11月)

芹生一(せりうはじめ)訳
『ピーター・パンとウェンディ』
(偕成社文庫、1989年8月)

大久保寛(おおくぼひろし)訳
『ピーター・パンとウェンディ』
(新潮文庫、2015年5月)


このうち
河合訳についでお薦めなのは、
高杉一郎氏の翻訳です。

30年程前のものですが、
今読んでもまったく違和感を感じない、
読みやすい翻訳だと思います。

ただし、
高杉訳でのCLAMPさんによる挿絵は、
今一つセンスに欠けるように感じました。

今風だからダメというわけでなく、
河合訳のmebaeさんによる挿絵と比べて、

プロの画家としての完成度に欠けるように感じました。


※Wikipediaの「ジェームス・マシュー・バリュー」「ピーター・パン」を参照。

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