2012年11月27日火曜日

【読了】夏目漱石 『幻影の盾』(明治38年4月)

夏目漱石(慶応3〔1867〕-大正5〔1916〕)の4作目は、
短編小説「幻影(まぼろし)の盾(たて)」を読みました。


漱石全集〈第2巻〉短篇小説集 (1966年)

夏目漱石「幻影の盾 ― 明治三八、四、一」
(『漱石全集 第二巻 短篇小説集』岩波書店、昭和41年1月)


「幻影(まぼろし)の盾(たて)」は、
雑誌『ホトヽギス』第8巻第7号(明治38年〔1905〕4月)に発表され、

漱石初の短編集『漾虚集(ようきょしゅう)』
(大倉書店・服部書店、明治39年5月刊)に収録されました。

『吾輩は猫である』とほぼ同時期なので、
これもまた30代後半に書かれたことになります。


アーサー王の時代にさかのぼり、
古代騎士に仮託して描かれた短編小説
ということになるのでしょうが、

正直なところ、
技巧を凝らした美文調の文章で、
総ルビでなかったら、お手上げでした。

今これを読む価値があるのだろうか、
と思いつつ、ブログの必要性にかられて通読しました。

大体の内容はわかりましたが、
細かく正確に理解できたかは少々不安があります。


内容的にもそれほど惹かれなかったので、
今後読み返す機会があるかはわかりませんが、

ゆっくり音読すると、
良い心持ちがしたのも確かなので、
いずれまた読み返すことにしましょう。


ただ漱石が、
『吾輩は猫である』を執筆しながら、
こんな試行錯誤を繰り返していたことが知られたのは、
大きな収穫でした。

いきなり初期の名作『坊ちゃん』が生まれたわけではなく、
短編によって、さまざまな方向性を探っていたことは、
それなりに興味深くはありました。

2012年11月19日月曜日

【読了】畑正憲 『ムツゴロウと天然記念物の動物たち ― 海・水辺の仲間』


畑正憲 著
『ムツゴロウと天然記念物の動物たち ― 海・水辺の仲間』
(角川ソフィア文庫、平成24年9月)

※「オオサンショウウオ」「テツギョ」「カブトガニ」
 「ウミネコ」「ホタルイカ」「モリアオガエル」の計6編。

※『天然記念物の動物たち』(角川文庫、昭和47年1月)を、
 改題の上、2分冊し、再編集したもの。
 単行本の初出は月刊ペン社、昭和44年。

先月の
『ムツゴロウと天然記念物の動物たち ― 森の仲間』
に続き、『海・水辺の仲間』編を読みました。

時間の流れは、
『海・水辺の仲間』=上巻、
『森の仲間』=下巻の順になっているようですが、

それぞれ独立した内容になので、
どこから読んでも大きな問題はありません。

収録されていたのは、

「大山椒魚」(オオサンショウウオ)
「鉄魚」(テツギョ)
「兜蟹」(カブトガニ)
「海猫」(ウミネコ)
「蛍烏賊」(ホタルイカ)
「森青蛙」(モリアオガエル)

の6編です。

楽しく読み進めているうちに、
少しずつ日本に住む動物について、
知識が深められるのはありがたいです。

生物学にはまったく縁がなかったので、
内容が学問的にどうなのかはわかりませんが、

読んで楽しいことが何よりなので、

古本で探して、
全巻読んでいこうかな、
と思います。

さて次は、『梟の森』編です。

2012年11月15日木曜日

【読了】ウィーダ著 『フランダースの犬』(雨沢泰 訳)


ウィーダ作/雨沢泰 訳
『フランダースの犬』(偕成社文庫、平成23年4月)
 ※表題作のほか「ウルビーノの子ども」「黒い絵の具」を収録。

イギリス出身の作家
ウィーダ(1839-1908)の名作
『フランダースの犬』を読みました。

ウィーダ33歳のとき(1872年)に出版された作品です。


同名のアニメが有名ですが、
通してみた記憶がなく、原作も読んだことがなかったので、
よい翻訳があれば読んでみたいと思っておりました。

最近手にとった
雨沢泰さんの翻訳がとても読みやすく、
この作品の魅力を存分に味わうことができました。


子どものころは、
悲しいお涙ちょうだいの物語は苦手で、
遠ざけていたように思いますが、

実際読んでみると、
芸術に対する瑞々しい感性が息づいていて、
芸術(絵画)に対する深い共感をもとに書かれた傑作であることがわかり、
これまでの見方を大きく改めました。


フランダース地方のアントワープ
(現在のベルギー西部の都市)で活躍した
画家ピーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640)をめぐる
ネロとパトラッシュの悲しいお話は、

人間にとって芸術(絵画)とは何なのか、
深く考えさせられる作品でした。


子ども向けで、
こうした趣向の作品ってほかに思いつかないのですが、
いかがでしょうか。


2つの併録作品
「ウルビーノの子ども」「黒い絵の具」も、
絵画への深い共感無くして書ける作品ではなく、

たいへん興味深く読み終えることができました。


翻訳は、以下のものが目に入りました。

 村岡花子 訳(新潮文庫、昭和29年4月。〔改版〕平成元年10月)
  ※表題作のほか「ニュールンベルクのストーブ」を収録。

 畠中尚志 訳(岩波少年文庫、昭和32年8月)
  ※表題作のほか「ニュールンベルクのストーブ」を収録。

 矢崎源九郎 訳(角川文庫、昭和36年)

 松村竜雄 訳(講談社青い鳥文庫、平成4年5月。〔新装版〕平成21年10月)

 野坂悦子 訳(岩波少年文庫、平成15年11月)
  ※表題作のほか「ニュールンベルクのストーブ」を収録。

 高橋由美子 訳(ポプラポケット文庫、平成23年11月)

村岡訳・畠中訳・松村訳・野坂訳は手に入れました。

村岡訳・畠中訳は、訳文がやや古めかしく、
野坂訳は、逐語的で若干、流れが悪いように感じがしました。

邦訳で、ウィーダのまとまった著作集は出ていないようです。
いずれぜひ英語でまとめて読んでみたいと思いました。

2012年11月14日水曜日

【読了】夏目漱石 『カーライル博物館』(明治38年)

夏目漱石(慶応3〔1867〕-大正5〔1916〕)の3作目は、
紀行文「カーライル博物館」を読みました。

漱石全集〈第2巻〉短篇小説集 (1966年)

夏目漱石 『カーライル博物館 ― 明治三八、一、一五』
(『漱石全集 第二巻 短篇小説集』岩波書店、昭和41年1月)


「カーライル博物館」は、
雑誌『学鐙』第9年第1号(明治38年〔1905〕1月15日発行)に発表され、

漱石初の短編集『漾虚集(ようきょしゅう)』
(大倉書店・服部書店、明治39年5月刊)に収録されました。

『吾輩は猫である』とほぼ同時期、
30代後半に書かれた文章です。


この作品は「倫敦塔」と同じく、イギリス留学時に、
ロンドンにあるカーライルの記念館を訪れたときのことを綴った文章で、
それなりに創作も交えてあるでしょうが、
紀行文といって良い内容に仕上がっています。


カーライルとは、
スコットランド出身の歴史家・評論家
トーマス・カーライル(1795-1881)のことです。

と書いてみたものの、
岩波文庫に収録された数冊を知るのみ、

実際に読んだことはないので、
どんな方なのかはよく知りません。

『衣服哲学』『英雄崇拜論』『過去と現在』

といった書名から、
今後よくこなれた新訳が出たら読んでみてもいいかな、
と思いますが、しばらくその機会はなさそうです。


さて肝心の内容ですが、
「倫敦塔」とはがらりと作風を変え、

カーライルに思いを馳せつつ、
訪問の記憶を一緒にたどりなおす様子が、

明快な文章でわかりやすく綴られていました。


特別な名作というほどのものではないのでしょうが、
私にとって好きな作品でしたので、
また読み返そうと思います。


※Wikipediaの「夏目漱石」「トーマス・カーライル」の項目を参照。

2012年11月9日金曜日

【読了】夏目漱石 『倫敦塔』(明治38年)

夏目漱石(慶応3〔1867〕-大正5〔1916〕)の2作品目は、
短編小説『倫敦塔(ろんどんとう)』を読みました。

漱石全集〈第2巻〉短篇小説集 (1966年)

夏目漱石『倫敦塔 ― 明治三八、一、一〇』
(『漱石全集 第二巻 短篇小説集』岩波書店、昭和41年1月)

「倫敦塔(ろんどんとう)」とは、
雑誌『帝國文學』第11巻1号(明治38年〔1905〕1月10日発行)に発表され、

漱石初の短編集『漾虚集(ようきょしゅう)』
(大倉書店・服部書店、明治39年5月刊)に収録された作品です。

『吾輩は猫である』とほぼ同時期、
漱石30代後半にまとめられた作品です。


漱石は33歳のとき、
明治33年(1900)5月から、
イギリスに留学しています。

そのときの記憶をもとに、
創作を交えて語られる、幻想的な作品でした。

ちょうど読み終えていた
シェイクスピアの『リチャード三世』からの引用もあって、
興味深く読み終えることができました。


ただし、
今の作家なら絶対に使わない、
難しい漢字をふんだんに盛り込んだ表現がされていて、

総ルビ付きでなかったら、
かなり手こずっただろうな、と感じました。


『吾輩は猫である』とは全く違った趣向で、
小説家として進むべき方向を、試行錯誤しているようにも感じました。


短い作品なので、
再読する機会はあると思いますが、

文章を飾り立てるのは余り好きではないので、
さほど感銘は受けなかったことを告白しておきます。


※Wikipediaの「夏目漱石」「倫敦塔」「ロンドン塔」

2012年11月8日木曜日

【読了】Aladdin and the Enchanted Lamp (OBW1)

やさしい英語の本、通算33冊目、
Oxford Bookworms Stage1 の4冊目、

『アラジンと魔法のランプ』を読みました。


Aladdin and the Enchanted Lamp

Retold by Judith Dean
(Oxford Bookworms の Stage1)
2008年刊(5,240語)

幼いころに、
こんな話を聞いたような、
おぼろげに記憶しているだけでしたが、

奇想天外な、軽めの楽しいお話で、
今読んでもふつうに楽しめました。

日本の昔話とも、
イソップ童話やグリム童話などとも
多少違った印象があって、

アラビアン・ナイトのほかの話も
読んでみようと思いました。


   ***

『アラジンと魔法のランプ』は、

アラビア語の説話集
『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』
のなかの有名な説話の一つとして知られていますが、

アラビア語の写本にはこの話が収録されておらず、

18世紀のはじめ、
アントワーヌ・ガランのフランス語訳
『アラビアン・ナイト』によって初めて世に出たものだそうです。

細かい書誌を追うには、
ヨーロッパのみならずイスラムにまで目を向けねばならず、
現在の私の能力を越えるので、とりあえず、
すぐに購入可能な邦訳を調べておきます。


小中学生を対象に編集されたものとしては、
次のものが手に入れやすそうです。

・川真田純子 編訳
 『アラビアン・ナイト』
 (全7冊。講談社青い鳥文庫、
  昭和62年2・3月〈1・2〉、昭和63年9・11月〈3・4〉、
  平成3年11月〈5〉、平成4年5・10月〈6・7〉)

・奴田原睦明 編訳
 『アラビアン・ナイト』
 (上下2冊、偕成社文庫、平成2年6月)

・ケイト・D・ウィギン、ノラ・A・スミス編/坂井晴彦 訳
 『アラビアン・ナイト』
 (福音館書店、平成9年6月)

・ディクソン編/中野好夫 訳
 『アラビアン・ナイト』
 (上下2冊。岩波少年文庫、平成13年9月)

・斉藤洋 編訳
 『アラビアン・ナイト』
 (全4冊。偕成社、平成16年9・12月、平成17年2・3月)

大人向けの本格的な訳本は、
次のものが手に入れやすいようです。

・前嶋信次・池田修訳
 『アラビアン・ナイト』※アラビア語からの直訳。
 (全19冊。東洋文庫。
  第1~12巻・別巻は前田訳、昭和41年7月~昭和60年3月。
  第13~18巻は池田訳、昭和60年9月~平成4年6月)

・大場正史 訳
 『バートン版 千夜一夜物語』※バートン版=英訳
 (全11冊。ちくま文庫、平成15年10月~平成16年8月)

・佐藤正彰 訳
 『千一夜物語』※マルドリュス版=仏訳
 (全10冊。ちくま文庫、昭和63年3月~平成元年2月)

・豊島与志雄・佐藤正彰・渡辺一夫・岡崎正孝 訳
 『完訳 千一夜物語』※マルドリュス版=仏訳
 (全13冊。岩波文庫、〔改版〕昭和63年7月)


そのほか『アラビアンナイト』の受容史について、
一般向けの解説書として、

・西尾哲夫『アラビアンナイト - 文明のはざまに生まれた物語』
 (岩波新書、平成19年4月)

がよくできています。


※Wikipediaの「千夜一夜物語」「アラジンと魔法のランプ」を参照。


※計33冊 計270,479語。

2012年11月5日月曜日

【読了】Jules Verne, Round the World in the Eighty Days (PAR Level2)

やさしい英語の本、通算32冊目
Penguin Active Reading Level2 の4冊目、

フランスの作家
ジュール・ヴェルヌ(1828-1905)の
小説『八十日間世界一周』(発表1872)を読みました。


Jules Verne
Round the World in the Eighty Days

Retold by Michael Dean
(Penguin Active Reading のLevel2)
2008年刊(8,579語)

書名は聞いたことがありましたが、
実際に読んだことはありません。

今回リトールド版で読むのが初めてです。


八十日で世界を一周するという趣向が、

今では、お金と時間さえあるなら、
さほど無茶な話ではなくなっているわけですが、


今から140年ほど前、
1872年10~12月に行われた世界旅行記と考えて、

興味深く読み進めることができました。


むろんフィクションではありますが、
月に行ったり、海底に潜ったりするのに比べれば、
よほど現実味のある話だと思います。


ちなみに1871年(明治4年)から、
2年近くの年月をかけて、
岩倉遣欧使節団が派遣されています。

そのころのお話として読むと、また興味がわいてきます。


邦訳で圧倒的に読みやすいのは、


高野優 訳(上下2巻。光文社古典新訳文庫、平成21年5月)

でした。そのほか、

 江口清 訳(角川文庫、昭和38年。初出は『世界大ロマン全集』東京創元社、昭和32年)
 田辺貞之助 訳(創元SF文庫、昭和51年3月)
 木村庄三郎 訳(旺文社文庫、昭和56年12月)
 鈴木啓二 訳(岩波文庫、平成13年4月)

など目に入りました。


※wikipediaの「ジュール・ヴェルヌ」「八十日間世界一周」

※総語数、YL(読みやすさレベル)については、
 古川明夫 編『めざせ!100万語 読書記録手帳』
 (第6版、2010年4月)を参照しました。


※計32冊 計265,239語。

2012年11月3日土曜日

【読了】シェイクスピア 『リチャード三世』(福田恆存訳)

福田恆存訳のシェイクスピア、
しばらくストップしていましたが、
夏目漱石と交互に読んでいこうと思いたち、
『吾輩は猫である』を読み終わったのに続いて、

イギリスの劇作家
ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の
史劇『リチャード三世』(初演1591年)を読んでみました。
シェイクスピア20代後半の作品です。


ウィリアム・シェイクスピア著/福田恆存 訳
『リチャード三世』(新潮文庫、昭和49年1月)
 ※初出は『シェイクスピア全集1』昭和35年12月。


福田恆存訳の
『シェイクスピア全集1~15』
(新潮社、昭和34年~42年)も格安で手に入れましたが、

平成16年7月に改版したばかり、
大きめの鮮明な活字が読みやすく、
難しそうな漢字にはルビもふってあり、
持ち運びやすい文庫本で読みました。

このあたりの歴史はほとんど何も知らないので、
巻末の関係系図を行きつ戻りつしながら、
でも流れを切らないように、

多少こんがらがりながらも、
舞台を観ているようなテンポで、
とりあえず全体を通読してみました。



わからないなりに1冊読み終えると、
自分なりの「リチャード三世」像が出来てきて、
少なくともこの時期の王位が、

 ヘンリー六世(在位1422-61/1470-71)
 エドワード四世(在位1461-1470/1471-1483)
 エドワード五世(在位1483.4.10-6.26)
 リチャード三世(在位1483-1485)
 ヘンリー七世(在位1485-1509)

の順に継承されていたこと位は、
実感できるようになりました。

細かな史実と相違するところも当然あるのでしょうが、

イギリス王室史入門としては、
教科書的なものを読むよりは、よほどおもしろいと思いました。


リチャード三世の在位は、
1483年から85年までなので、

1564年生まれのシェイクスピアにしてみれば、
自分が生まれる80年くらい前のことを描いたことになります。

初演時20代後半だったことを考えれば、
記憶を110年ほどさかのぼらせて、史劇に作り上げたことになります。


ちなみに、
今から80年さかのぼると、
昭和7年(1932)5・15事件が起こった年、
110年さかのぼると、明治35年(1902)日英同盟が締結された年になります。

こう考えると、今の我々が、
日清・日露戦争のことを描くような感覚で、
この史劇が描かれたのかな、とも思えます。


初『リチャード三世』の感想は、
これくらいにしておきましょうか。


※森護『英国王室史話〈上〉』(中公文庫、平成12年3月。初出は大修館書店、昭和61年3月)を参照。