2012年8月31日金曜日

【読了】中川八洋 『TPP反対が国を滅ぼす』


中川八洋 著
『TPP反対が国を滅ぼす ― 農水省・JA農協を解体せよ!』
(PHP研究所、平成24年8月)

中川八洋氏が、TPP賛成の立場から、
日本農業の根本的な改革案を披露されました。

第一章で、日本農業の現状を分析し、
第二・三章で、農水省が行なってきた農政の問題点を整理し
第四章で、JA農協の問題点をその成立から検討し直し、
第五章で、TPP反対論への批判を行い、
第六章で、より広い視野から「保護貿易」「自給自足」推奨への批判を行なっています。


中川氏と農業はこれまで結びつかなかったのですが、
30年以上前、『諸君!』1980年12月号で、
論文「食糧安全保障は真赤な嘘である」を発表し、

当時、農水省が唱えていた
「食料自給率」「食糧安全保障」論の問題を、
日本で最初に否定、批判されていたそうです(本書46頁)。



本書で中川氏は、

現在の日本農業(の一部)が、
スターリン型計画経済の呪縛と腐敗に毒され、
破綻寸前であることを明示し、

日本の農業が活力(自由)を取り戻し、
再生への道を歩んでいくためには、

極端に高い関税や、
北朝鮮型の「国家貿易」、
高額の補助金や、生産統制(減反)など、
いまだに数多く残されている計画経済的な農業政策を、
改善・撤廃することが不可欠であると主張しています。


そして現在、
日本が参加を検討している
TPP(環太平洋経済連携協定)とは、

自由貿易を発展・深化させることを目的として、

参加国の90%以上の貿易品目について、
十年以内に関税を完全撤廃しようとするものですから、


日本農業に残存する計画経済的な政策を、
改善・撤廃するきっかけとなることは明らかで、

日本の国益にかなっていると主張しています。



日本の農業については、私(栗木)も最近、
浅川芳裕氏(雑誌『農業経営者』副編集長)の
著書と出会い、勉強を始めておりました。

『日本は世界5位の農業大国』
 (講談社プラスアルファ新書、平成22年2月)

『TPPで日本は世界一の農業大国になる』
 (ベストセラーズ、平成24年3月)

農業経営者の現場の声をふんだんに盛り込みつつ、

現行の農業政策の問題点をわかりやすく整理し、
前向きの改善策を具体的に提言してある本です。

浅川氏のおかげで、
中川氏の新著を読む以前に、
中野剛志氏等が唱えるTPP反対論に対しては、
大きな違和感を抱いておりました。

中川氏の新著にも、
 雑誌『農業経営者』、
 浅川芳裕『日本は世界5位の農業大国』
は肯定的に引用されており、安心いたしました。



今後の勉強のため、
中川氏が肯定的に引用されている
他の農業関係の文献(論文はのぞく)もあげておきます。

◇農水省が1984年に発明した
 「カロリー食料自給率」の問題について

 川島博之 『「食料自給率」の罠 ― 輸出が日本の農業を強くする』
        (朝日新聞出版社、平成22年8月)
 生源寺眞一 『日本農業の真実』
         (ちくま新書、平成23年5月)
 茂木創 『食料自給率という幻 ― 誰のための農業政策なのか』
      (唯学書房、平成23年9月)

◇豚肉の「差額関税制度」の問題について

 志賀櫻 『〈国際条約違反・違憲〉豚肉の差額関税制度を断罪する
        ― 農林水産省の欺瞞』(ぱる出版、平成23年9月)

◇「JA農協」の問題について

 山下一仁 『農協の陰謀 ―「TPP反対」に隠された巨大組織の思惑』
        (宝島社新書、平成23年5月)
 岡本重明 『農協との「三十年戦争」』
        (文春新書、平成22年1月)

各著者についてさかのぼり、
勉強を深めていこうと思います。


最後に、
第五・六章の中野剛志氏等への批判は、

中野氏の著書のうさん臭さに、はじめから
気がついていた身にとっては言わずもがななのですが、

詭弁を弄した著書を
根本的に批判することはたいへん骨の折れる作業であり、
これは中川氏の知性があってこそだと思うので、
とても勉強になりました。

ちょうどアダム・スミスを再読する
必要性を感じていた時期だったので、
後押ししていただいた気分です。

2012年8月26日日曜日

【読了】Johanna Spyri, Heidi (PR Level 2)

やさしい英語の本、通算27冊目、
Penguin Readers の Level2から1冊目、

スイスの小説家
ヨハンナ・シュピリ(1827生 1901没)の
名作『ハイジ』(1880)を読みました。


Johanna Spyri
Heidi
Retold by John Escott
(Penguin Readers Level 2)
(8,601語)

『ハイジ』は、
1974年に放映されたテレビアニメ
(アルプスの少女ハイジ)を、
再放送で何度か目にし、
大まかなあらすじは覚えておりました。

数年前に、
どんな小説だったのかと気になって、
矢川澄子訳(福音館文庫)で読み直し、
改めて『ハイジ』のファンになりました。

アルプスの自然の美しさ、
ハイジの心の美しさに、
自分の心も洗われる、時折読み返したい小説です。

もとはドイツ語です。
やさしい英語に書き直してありますので、
中3、高1くらいの英語力があれば、
1、2週間もあれば読みこなせると思います。

ドイツ語の原書にまで
さかのぼるわけにはいきませんが、
翻訳でまた読んでみようかな、
と思っております。

日本語訳『ハイジ』は、次のようなものが出版されています。
(網羅的ではありません。)

竹山道雄 訳
(上下2巻。岩波少年文庫、昭和27年9月)

関泰祐・阿部賀隆 訳
(角川文庫、昭和43年8月。新装版、平成18年7月。初出は昭和43年8月)
 ※書名『アルプスの少女ハイジ』

矢川澄子 訳
(上下2冊。福音館文庫、平成15年3月。初出は福音館書店、昭和49年12月)

国松孝二・鈴木武樹 訳
(第一・二部、2冊。偕成社文庫、昭和52年9月)
 ※書名『アルプスの少女ハイジ』

各務三郎 訳
(上下2巻。ブッキング、平成16年7月。初出は読売新聞社、昭和56年5・7月)
 ※書名『アルプスのハイジ』

上田真而子 訳
(上下2冊。岩波少年文庫、平成15年4月)

池田香代子 訳
(講談社青い鳥文庫、平成17年12月)
 ※書名『アルプスの少女ハイジ』
 ※池田訳は、『アルプスの少女』の書名で、
   小学館 フラワーブックス(昭和57年10月)
   講談社 少年少女世界文学館(昭和62年4月)
   講談社 21世紀版 少年少女世界文学館(平成23年1月)
  から出版されています。詳しい関係は、わかり次第記します。

はじめは、矢川訳で読みました。
美しい日本語に訳されていると思いますが、
子ども向けに、やさしい熟語もひらがなにしてあるのは、
多少まどろっこしい感じになりました。
編集の方針かもしれませんが、
ルビをふればよいので、もう少し漢字を入れてもらえた方が読みやすかったです。

今回、竹山道雄氏が
『ハイジ』を翻訳していることを知り、
古本で注文しました。そろそろ届くころなので、
読んでみようと思います。


※計27冊 計224,220語。

2012年8月21日火曜日

【読了】岡崎久彦 『吉田茂とその時代』

岡崎久彦氏の日本近代外交史5部作、
5冊目をようやく読み終えました。


岡崎久彦 『吉田茂とその時代』
(PHP文庫、平成15年11月。初出は平成14年8月)

4冊目を読み終えたのは5月の初めでしたので、
時間が少しかかり過ぎましたが、
たいへん勉強になりました。


全体を読み終えての感想。

1・2冊目の、
歴史書としての完成度の高さから考えると、
3・4・5冊目へと進むにつれて、
違和感を覚えるところが増え、

5冊合わせて傑作と呼ぶのは
躊躇せざるを得ない結果となりました。


努めて客観的に書こうと
努力されていることは疑いないのですが、

岡崎氏の史観が、
ごく穏当ながらも「民族系」に属し、
その範疇を出るものでないことは明らかであり、

記述を少し過激化すれば、
左翼の史観とさほど変わらなくなる、

民族系のもつ致命的な欠点を
そのまま受け継いでいる点には
注意する必要があると思いました。


岡崎氏自身、
3冊目以降は、原史料にさかのぼることなく、

先行研究を自分なりに咀嚼した結果を
叙述し直した作品であると述べておられるので、

学会の研究成果の一番穏当なところを
わかりやすくまとめた作品として読めば、
よい仕事がされていると言えるかもしれません。


しかし日本の歴史学会が、
今なお左翼に牛耳られていることは
周知の事実ですので、

その中から、
いくら岡崎氏が、自らの責任で、
できるだけ穏当な部分を拾い出そうとされても、

自ずから限界があったと言うべきでしょう。


たとえば、
評価が定まる前とはいえ、

1990年代に刊行された
ヘレン・ミアーズの『アメリカの鏡・日本』や、
小堀桂一郎氏の『東京裁判 日本の弁明』『再検証 東京裁判』
などを肯定的に紹介されるのには疑問がありました。


ただし現状として、
これを上回る出来の、読みやすい通史があるか、
といわれると、見当たらないことも確かです。

いろいろ考えるきっかけにもなり、
有意義な時間を過ごすことができました。


さて次は、
チャーチルの『第二次世界大戦』
を読もうと思っています。



※ミアーズについては、中川八洋「大東亜戦争肯定論は、『極左思想』の温床」(『亡国の「東アジア共同体」』北星堂、平成19年6月)270~273・285頁を参照。

※小堀桂一郎については、中川八洋 「“畸型の共産主義者”小堀桂一郎の女系主義」( 『小林よしのり「新天皇論」の禍毒』オークラ出版、平成23年7月)を参照。

2012年8月18日土曜日

【紹介】京須偕充 『古典落語CDの名盤』 『古典落語 これが名演だ!』

落語を聴きはじめて、
まだ5年ほどしかたっておりませんので、
何かを語れるほどのことは知らないのですが、

私が落語のCDを聴き始めるきっかけとなった
入門書を2冊紹介します。

京須偕充(きょうすともみつ)氏著


『古典落語CDの名盤』
(光文社新書、平成17年4月)

と、


『古典落語 これが名演だ!』
(光文社新書、平成17年12月)

です。

京須氏について何も知らないで読み始めたのですが、
落語の録音プロデューサーとして良く知られた方のようです。

 六代目三遊亭圓生の「圓生百席」の録音、
 三代目古今亭志ん朝の録音

を手がけているそうで(表紙裏の著者略歴参照)、

現在、聴き進めている
十代目柳家小三治のCD録音も、
京須氏が手がけています。


本来なら、
足繁く寄席に通って、
少しずつ落語の世界に親しんでいくのが
王道なのでしょうが、

寄席のない
一地方に暮らす者が、
ふだんから落語に親しもうと思えば、
CDを聴くほかないところがあります。


そこで、
落語のCDって面白そうだ、
と思いはじめたころに、

落語の基本的な演目と、
代表的な名盤CDを紹介してくれる本は
ないかと探していたところ、

京須氏の新書2冊に出会いました。


本書を片手に、
気になったCDを取り寄せて聴いてみたり、

たまたま耳にした演目について調べ、
ほかに代表的なCDがあれば聴いてみたり、

2冊合わせて140演目あるので、
まだ聴いていないお噺もありますが、

落語の世界に楽しむ良いきっかけを与えてくれました。


寄席が近くにあって、
生で落語を楽しめる立場の人は、

案外少ないのではないかと思いますので、

CDで、
落語に親しむことを前提に書かれた入門書は、
ほかにも書かれていて良いはずなのですが、

今のところ類書は見当たらないようです。


CDで、
落語を聴いてみようと思う方に、
まずお勧めできる2冊だと思います。