2011年7月9日土曜日

山本周五郎『泣き言はいわない』



山本周五郎『泣き言はいわない』
(新潮文庫、平成6年11月)

山本周五郎氏の作品には、
しみじみと心に染みてくる優しさがあります。
人の弱さ、過ちをそのまま受け入れた上で、
前を向いて生きて行こう、と私の背中を押してくれる、
大人の優しさが感じられます。

山本氏の箴言集です。

同じ新潮文庫では
ゲーテ著/高橋健二訳『ゲーテ格言集』
と双璧です。

これから何回かにわけて、
私が特に気に入った箴言を取り上げていきます。
※印は栗木によるコメントです。


◎一章 誇り高く生きる
◇一歩ずつの人生
他の千万人にとっては些細なことでも、
 或る一人にとっては一生を左右するような場合がある。
(あだこ)15

※相手の身になって考えることは、
 ふだん気をつけているつもりでも、
 ふとした瞬間に、忘れてしまうことがあります。
 でもそんな時にこそ、相手を傷つけてしまうことがあります。


人間の一生には晴れた日も嵐の日もあります、
 どんなに苦しい悲惨な状態も、
 そのまま永久に続くということはありません
(人情裏長屋)16

※そう信じなければ、
 生きていくのはたいそう困難なことになるでしょう。
 でもとびきり苦しい悲惨な状況が、
 五年、十年ならいざ知らず、
 二十年、三十年、ならまだしも、
 四十年、五十年と、人生の大半を、
 黒く塗りつぶしてしまうとしたら、
 それでもなお、
 死ぬまでにはどこかで晴れることもある、
 と明るく朗らかに生きることができるか。
 私にはそこまでの自信はありません。


心に傷をもたない人間がつまらないように、
 あやまちのない人生は味気ないものだ。
(橋の下)18

※過ちは、なければないで、
 それに越したことはないわけですが、
 過ちとは、見る人によるところがありますから、
 あまりハードルを上げすぎると、
 人生つまらぬものに思えて来るでしょう。


◇人間らしく生きる
人間にとって大切なのは
 『どう生きたか』ではなく『どう生きるか』にある。
(二十三年)22

※結果は、
 自分の努力だけではどうにもならないことがありますが、
 その過程をどう生きるかは、
 自分自身の問題です。


人間が大きく飛躍する機会は
 いつも生活の身近なことのなかにある。
(尾花川)24

※身近なことから目を離してはダメ。
 答えはきっと身近なことがらの中にある、
 そう信じて努力を続けたい。


◇戦いつづける勇気
人間が正しく生きるためには勇気が必要であります。
(寝ぼけ署長)28

※勇気はときに孤独を生むことがある。
孤独という苦痛に耐える勇気が必要です。


人間は生きている限り、
 飲んだり食ったり、
 愛したり憎んだりすることから
 離れるわけにはいかないものだ、
 どんなに大きな悲しみも、
 いつか忘れてしまうものだし、
 だからこそ生きてもゆかれるんだ。
(栄花物語)29

※記憶の効用。
 周五郎のやさしさ。
 間違えなくてはとても生きていかれない、
 人間を肯定的にとらえて、
 前を見て歩いていきましょう、
 と呼びかけられるのは、
 誰にでもできることではありません。
 忘れてしまうから、
 なんとか乗り越えられることもあります。


人間がこれだけはと思い切った事に
 十年しがみついていると大抵ものになるものだ。
(花筵)32

※実際はそれでも、
 ものにならないことがあるわけですが、
 ものになる、と信じて、
 前を向いて努力し続けるほうが、
 生き方としては正しいように思われます。


人間はいつも意志によって行動するものではない。
(季節のない街)33

※感情がほとんどでしょう。
 人間は感情によって行動することがほとんどだ、
 と知っておいた方が、
 社会に出て、間違いは少なくなるでしょう。


見た眼に効果のあらわれることより、
 徒労とみられることを重ねてゆくところに、
 人間の希望があるのではないか。
(赤ひげ診療譚)35

※そう信じたい。
 できれば、徒労と感じないで、
 縁の下の力持ちとしての仕事を
 喜んで黙々と続けられるようになれたらいいな。


絶望は毒の如く甘い
(断片 昭和25年のメモ)36

※共感しませんが、強い言葉です。


人間は『絶望』し絶望から抜け出るたびに高められる。
(断片 昭和25年のメモより)37

※絶望するのは、自らの存在を否定されるから。
 生きて死ぬこと。生き返るから高められる。


人間はみんながみんな成りあがるわけにはいきゃあしない、
 それぞれ生れついた性分があるし、
 運不運ということだってある
(ちゃん)39

※分相応ということ。
 わかいうちはそれなりに背伸びをして、
 ある程度の年齢で、
 自分なりの居場所を見つけて
 生きていかれたらいいな。


にんげん生きているうちは、
 終りということはないんだな
(おさん)39

※死ねば終わり。
 生きているうちはがんばります。
 死ぬまでは生きている。
 ギリギリまでがんばろう。


どんな過でも、
 この世で取り返しのつかぬことはない。
 人間はみな弱点を持っている。
 誰にも過失はある、
 幾度も過を犯し、
 幾十度も愚かな失敗をして、
 そのたびに少しずつ、
 本当に生きることを知るのだ。
 それが人間の、
 持って生れた運命なのだ。
(五月雨日記)40

※取り返しがつかなくても、
 明日は来る。
 明後日も来る。
 どうせ生きるのなら、
 前を向いて、明るく朗らかに生きよう、と思う。

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